(尾根を彩るアカヤシオ)武甲山は僕にとって思い出深い山だ。初めて単独行をしたのがこの山であったし、廃道に入り込んで事故を起こしたのもこの山だった。最初にこの山を登ったときはもう二度と来ないと思ったほどだったのに、もう6年も山歩きを続けているのだから、人間とはわからないものである。武甲山へ登るのは今回で6回目となる。一年に一回は登っている計算だが、昨年は登る機会がなかったから、随分久しぶりに歩くような感じがしている。しかもGWの時期に歩くのは初めて登った6年前のとき以来である。歩き慣れた山ではあるが、何か新しい発見を僕にくれるのではないか。そんなことを期待して僕はGW前半の終わりに武甲山登山へと出掛けた。いつも通り飯能駅7時10分発のバスに乗り込む。座席が埋まるほどの混み具合に少し驚く。前回このバスに乗ったのは2月の蕨山でのことで、あのときは寒くて雪も積もっていて、乗客は少なかったからなぁ。見慣れた車内をぼんやりと眺めていると見慣れない張り紙に目が行く。それは国際興業バスが飯能営業所の全路線からの撤退を知らせる内容であった。この知らせには寝不足でぼんやりとしていた頭を金鎚で殴られたような衝撃を受けた。僕にとっての奥武蔵での歩みはこの国際興業のバスとともにあったと言ってもいい。それが失われるということは思い出の一部を喪失するのに近い。後継事業者を選定中とのことらしいが、何か靄のかかった今日の空と同じように先の見えないモヤモヤ感に包まれたような気分であった。混みあうバスは珍しくさわらびの湯でも殆ど降りず、名郷で十数人の乗客が降りる。一部は蕨山へと向かっていったが、多くは妻坂?鳥首峠方面へと進んでいく。これも珍しいことだ。準備も整い、先行者の後姿を見ながら僕も鳥首峠を目指す。今日予定しているルートは2月に歩いたときと同じように、林道終点から鳥首峠へ登った後、昨年の秋に訪れた大持山から小持山を経由して武甲山に登り、長者屋敷尾根を経て秩父鉄道浦山口駅へと下山することにしている。(スタート地点 名郷)入間川に沿って設けられた大鳩園と呼ばれるキャンプ場には、デイキャンプらしきお客の姿も見える。小学生くらいなのか、小さな子供たちがテントを出入りしたり、宿題なのか絵を描いたり…。そうやって幼い頃から自然に触れることは良いことだと思う。以前はデイキャンプのような擬似自然体験的なものには批判的な考えを持っていたのだが、最近はあまり堅苦しいことは考えなくなった。自分の山歩きとて擬似自然体験的なものであることには変わらないのだから。小学生くらいの女の子を連れた親子ハイカーの後姿を追いながらのんびりと歩く。妻坂峠との分岐である大場戸橋に差し掛かるとあの親子ハイカーを含め、皆妻坂峠へと向かっていく。鳥首峠へと向かうのは僕だけとなってしまった。大場戸橋を渡ると後ろから大きなタンクを積んだトラックややって来た。この先のJFEミネラルの工場でタンカルを運搬するタンク車だ。林道歩きの短さにもかかわらず、鳥首峠へ足を踏み入れる者が少ないのは、この鉱業所の存在と峠道の厳しさにあるのだと思う。大場戸橋から30分足らずで鳥首峠登山口であるJFEミネラルの工場前にやって来る。ここから先は2月にも歩いている所なので特筆すべきところはない。ただ今日は谷間を靄が漂い、眺望を得るのは難しそうだ。工場裏手を抜けて暗い植林帯を進む。この辺りいくらか道が電光形を描いていて峠道らしき雰囲気はある。最後に斜面をぐるりと回りこむと白岩の廃集落に出る。廃屋には全く興味はないが、集落の名残とも言える住民が植えた花々には興味がある。3月頃からミツマタ?椿と咲き、桜?山ツツジと続くのだが、今日は桜らしき花が見頃を迎えていた。(白岩集落の桜?)鳥首峠に関して毎回言及していることだが、白岩集落から峠まで3回沢を横切ることになる。2月に来たときも気になったことだが、この沢を横切る道はあまり状態が良くない。道が崩れて滑落の危険もあるほか、増水時は道が流されてしまう可能性が大きいのではないかと思う。3度目の一番穏やかな沢を過ぎると九十九折の登りだ。上が明るいのでついつい飛ばし勝ちだが、じっくりと登る。鳥首峠に出ると西側の雑木林には冬枯れの光景が広がっていた。いくらか芽吹いている木もあるが、期待していた新緑には程遠い。眺望も期待できず、新緑にも程遠いとなると今日の山歩きは随分と味気無いものとなってしまいそうだ。(荒れた沢)(鳥首峠)鳥首峠からは檜の植林の急斜面を登っていく。鳥首峠から大持山まではこうした急登が3回続く。急斜面を登り切れば落葉樹との混合林となる。展望が開ける所があるが今日は薄っすら見える程度。1059のピークへは採掘の関係で迂回を強いられるが、以前感じたほどにはきつい登りではない。1059のピークから先は気持ちの良い落葉樹林が広がる。ここは冬枯れの光景も悪くない。ただ一度くらいは新緑の中を歩いてみたいものである。アップダウンも緩やかな道をのんびり歩いていると開きかけのカタクリの花に出合う。よく見ると花は付いていなくともカタクリの葉はそこかしこにある。今年は雪が多くてあまり鹿に食べられていないということもあるのだろうけれども、これだけカタクリの葉を見るというのは意外であった。次のピークに差し掛かると尾根が痩せて岩っぽくなってくる。岩場注意の標柱の先はやや危険に感じる岩場だ。ここを下りきるとウノタワの落葉松林が眼下に見えてくる。落葉松は葉が茂るのが早いのか新緑が靄の中に浮かび上がる。ウノタワに着いて休憩を取っていると鈴の音が聞こえてきた。登山者だ。あまり人の多い尾根ではないが、流石にGWともなると歩く人は多いらしい。(展望の開けた所)(1059のピークを越えた辺り 気持ちの良い雑木林が広がる)(岩場の上部にて 本来標柱の上に武甲山が見える)(ウノタワの落葉松林を見下ろす)ウノタワからは二度目の急登。秋は紅葉の美しかった所だが、登りに採るとやはり辛い。急斜面を登りきると伊豆ヶ岳方面の展望が開けるが今日は真っ白。その代わりすぐ側にミツバツツジが紫色の花を付けていた。蕾となっているものも多く、これから多くの花を付けることだろう。ここから横倉山(1197)までは再び穏やかな落葉樹の尾根が続く。樹皮の白い木もあり、奥武蔵よりも奥山へと入り込んだ雰囲気がある。緩やかなアップダウンを繰り返し横倉山(1197)に着く。地味なピークだが、洒落た手彫りのプレートが掛けられている。横倉山から一旦下り、最後の急登に取り掛かる。感覚的にはここが一番